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​講師 松岡洋子 先生

(東京家政大学​人文学部福祉科学准教授)

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高齢者ケアのパラダイムシフト
〜人と地域の「力」を信じる「コ・プロダクション」〜

​技術講座

 ヨーロッパ諸国の高齢化率はようやく20%を超えようかという水準であり、子供の出生数は減少しているとは言え、人口減少は始まっていない。にもかかわらず、少子高齢化とそれに伴う制度(財政面)のサステイナビリティに大いなる危機感をもち、「ニーズあるところにサービス提供」してきた福祉国家の価値観を転換させるドラスチックな改革に取り組んでる。その方向性をキーワード化すれば、「自立(リエイブルメント)」「参加型社会」「地域」であり、「できないことをしてあげるケアから、するを支えるケアへ」「専門職による制度サービス提供から地域での多様な資源による解決へ」という地殻変動が起こっている。デンマーク、イギリスの状況に触れた上で、オランダに焦点を当てたい。
 デンマークでは、全市に整備されている定期巡回型在宅ケアが、却って高齢の自立を阻害しているという反省に立ち、2015年より介護サービスを提供する前に機能回復の可能性をチェックすることを義務付けた。そして、機能回復が可能な人には短期集中のリハビリによって自立を促進する「リエイブルメント」を開始して、成果を上げている。この時の目標設定は、「以前のように、犬と一緒に散歩したい」など、まさに日常生活そのものである。イギリスではヘヴァレッジ報告以来の法改正と言われている「2014年ケア法」が制定され、第1条で謳われる「ウェルビーング原則」に基づき、本人のストレングスと意思にフォーカスして、地域住民が創り出す資源も含めたよりホリスティックな解決が主流となりつつある。その結果として、活発なコミュニティ・ソーシャルワーカーの支援を得て、地域に多くの資源が創り出されている。
オランダは、地域住民の支え合いが古くから根付いてきた国である。しかしながら、1968年に開始された介護保険の給付金は22倍以上に膨れ上がり、2007年以来大胆な改革が続けられてきた。現在、家事援助・デイサービスは介護保険から外され、さまざまな生活課題をまず本人・家族の力で解決し、地域のボランティア組織にも依頼し、最後に制度サービスを利用するという「インフォーマル・ファースト・モデル」が浸透している。GP(かかりつけ医)も診断のつかない痛みや鬱状態を訴える患者には地域住民の助け合いによる解決へつなぐなど、「社会的処方」が広がりつつある。
​ 地域資源の活用が活発になる中で重要になってくるのが、専門職とボランティアを含むインフォーマル資源が力を合わせる「コ・プロダクション」である。そのためには、それぞれが自発的に動き、多様な力に気付き、対等性を認め合うことが重要であると言われている。住み慣れた地域で、一人ひとりが自立とwell-being(幸福)に満ちた暮らしを実現するために何が求められるか、、、一緒に考えてみませんか?

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